国内で26年ぶり CSF(豚コレラ)発生

運営面、物資面で課題。実践で見えてきたもの 運営面、物資面で課題。実践で見えてきたもの
(インタビュアー)NPO法人コメリ災害対策センター 古澤

運営面、物資面で課題。実践で見えてきたもの

古澤 今後の取り組みと課題をお聞かせください。

山中 発生後には、今回対策本部を担った地域の農業農村事務所と県庁、作業の指揮をとった家畜保健衛生所とで、各立場での対応について検証を行いました。マニュアルも見直し、何時を基点として対策本部を立ち上げるかも議論を進めています。
今回課題として出た資材管理については、現地の対策本部が機能するよう、連絡調整を行う連絡調整職員の配置も視野に入れています。職員の役割を再度見直し、育成する計画です。

古澤 私どもは、これまで多くの自治体・団体の取り組みや課題を伺ってきました。それを踏まえて、運営に外部団体を介入させるということをご提案したいと思います。
災害時の応援協定の一つとして、倉庫協会等の物流関係業者とも締結があると思いますが、そのような業者は、いわゆる資材管理のプロです。他県では、緊急時は災害対策現地情報連絡員(リエゾン)などに、運営拠点に入ってもらい、管理を委託するという手段を取られる場合もあります。職員の方よりも、プロに入っていただいた方が作業も効率的かつ正確に行うことが出来るからです。
実践では、物資の配置や入出荷の動線などを考慮する必要がありますが、実際にマニュアルに盛り込まれている例は少ないです。仕組み作リの段階で専門家を入れれば非常に役立ちます。
協定事業者は災害発生時だけでなく、発生前にも活用するとより効果的だと思います。

滋賀県食肉衛生検査所主査 山中 美佳 様 【発生時】滋賀県農政水産部畜産課主査 滋賀県食肉衛生検査所主査 山中 美佳 様 【発生時】滋賀県農政水産部畜産課主査

山中 滋賀県は農場の規模の小ささや地形の狭さから、農場と別にテント基地や埋却地を設定しなければならないという問題があります。現行のマニュアルも農家ごとに個別に作成しており、それぞれに発生した場合の基地なども設定していました。
しかし、実践でそこが管理面や動線の面から見て最適だったか、使い易かったかについては疑問もあります。図面上に記していたことと、実際の動きがはっきりと異なる部分もありました。
見えてきた部分を活かし個別マニュアルをより充実させていくことで対応も可能となると考えています。

古澤 今回の対応を経験して、協定事業者を集めての更に実践的な訓練などお考えですか。
山中 実は豚コレラが発生する前に、同じ地域で鳥インフルエンザを想定した実働型の研修をしていました。
建設業協会とバス協会に参加していただいたのですが、同じ地域での発生でしたので、経験通りでやり易かったという意見はいただいております。継続して全地域で順番に出来ればと検討しているところです。マニュアル等を見直した後に、具体的に提案をさせていただければと考えています。

古澤 我々協定事業者への要望があればお聞かせください。

富田 以前の研修会での講演時に、物資拠点のパターンについてお話しいただきました。―つは現地の最寄り店舗を拠点として、そこにまとまった数量の物資が納品され、職員等が取りに行くパターン。もう一つは、従来のように、実際に現地へ運び込まれて来るパターンなど、いくつかをご紹介いただきました。
現地に運んでいただく場合、今回のように人員不足による問題がどうしても伴って来ます。どこか別に拠点を定めて、いったん置かせていただく形をとり、そこで協力しながら管理など出来ればという考えもあります。

古澤 過去に他県で発生した家畜伝染病の一例では、現地のすぐ横に店舗があり、駐車場に物資を集積させて必要な分だけ持って行っていただくという対応をしました。
資材管理の面で問題があったとのことですので、そのような対応を検討されても良いかもしれません。

山中 農場の規模によっては、物資の搬入場所を直接農場ではなく、例えば作業員の集合場所等にした方が良いかもしれません。
今回の農場は経由する道が細く、大型トラックでの物資配送には不向きでした。実際には、業者の方々が自主的に通行管理や鉄板を敷くなどの対応をしてくださったのですが、それがなければ難しかったと思います。

滋賀県農政水産部畜産課参事 青木 義和 様 滋賀県農政水産部畜産課参事 青木 義和 様 滋賀県農政水産部畜産課生産衛生・耕畜連携係主査 内本 智子 様 【発生時】滋賀県家畜保健衛生所主査 滋賀県農政水産部畜産課生産衛生・耕畜連携係主査 内本 智子 様 【発生時】滋賀県家畜保健衛生所主査

富田 いくら経験を積んだとしても混乱はすると思いますし、場所や対応する職員によっても状況は変わります。人は十分に配置する必要があります。
そして人を揃えても物資がなければ作業は出来ませんので、繰り返しになリますが管理や発注方法についても、今一度考え直す必要があると思っています。

山中 マニュアルの形式上、―つの品目の合計数を記載していませんでしたので、その集計と、現地の要望を精査するという作業が重なってしまい、時間を要しました。

古澤 物資の発注予定リストなどがあれば、要請の前段階でもいただいておくだけで、事業者側も準備しやすいと思います。
発生前の簡易検査の時点でいただくのが理想です。実際の要請の有無に関わらず、その時点で在庫の確認が出来ますので、時間を短縮させるのには充分です。

山中 今回の物資調達では、専門的な資材を要請する際にとても苦労しました。希望の規格に対して該当する商品が多く、決められないようなこともありました。
ですので、数ある供給可能物資の中から代表的な商品をピックアップしていただいたカタログなどがあると、要請時の商品イメージの共有もできるのではと思います。

古澤 経験のない地域へのアドバイスがあればお聞かせください。

山中 家畜保健衛生所や獣医師の訓練は、ほとんどの地域で行われていると思います。獣医師等は、実際の対応で行う殺処分の訓練を行っています。
しかし実は、獣医師ではない運用に携わる職員との連携の部分に課題が多いのです。個々で見れば、獣医師の活動は訓練通り行われていましたが、人手が不足した際にサポートする職員の訓練も、平常時から必要だと感じました。
問題なく進行出来た動員名簿の作成は、欠かさず訓練を行っていたという背景があってのことですので、今後も継続させていきます。
貝体的には、年度当初に発生時に招集される職員の名簿を作成しておき、訓練時に各部に必要人数分の依頼をかけて集約するという訓練を行っております。職員には異動もありますので、意識付けという観点からも毎年行っていたことで、今回問題なく実行出来ました。

POINT
■対策・提案
運営面  ・連絡調整を行う職員の配置
・連携面の訓練の実施


物資面  ・在庫管理ができる体制の構築
・イメージを共有できる媒体の作成

古澤 現地での活動についてはいかがですか?

藤井 繰り返しになりますが、今回は運営側で想定通りに業務を進行出来なかったということもあり、訓練内容の見直しが必要です。
対策本部と現場、指導者と担当間の連携が取れるよう、日頃から体制を整えておくことも重要です。訓練や研修で事前に経験させておくことが、対応を大きく左右することとなります。

古澤 運営の活動は、具体的にどのようなものだったでしょうか。

藤井 通常であれば、拠点に家畜防疫員1名がリーダーとして配置され、作業員に指示を出します。
ところが実際は、ありとあらゆる情報が次々とそこに集まってきて、その対応で手いっぱいになってしまいました。農場、対策本部、外部団体など、業務上必要な情報ではありましたが、結局連絡の時点で滞ってしまい、まともに拠点運営に携わることが出来なかったのです。
県の対策本部からの家畜防疫員と、現地の対策本部からの作業員とが集まったのですが、役割分担も明確にならないまま作業に当たっていました。現地作業員だけでなく、運営側も増員が必要ですし、指示を出せる立場の人材を配置させる必要性は大いにあると感じます。

内本 私自身は招集された作業員に指示を出す立場でしたが、やはり初めての経験でしたし、作業員にとってもそれは同じでした。1人の家畜防疫員に対して20人程の作業員が配置されましたが、お互いに何から取り掛かればいいかわからない状況の中、指示を出さなければいけない状況は苦しかったです。
また、いざ作業を行おうとすると必要な物資が見当たらずなかなか開始出来ないなど、様々な想定外や不手際が重なりました。まずは、見えてきた反省点を重点的に見直していかなければならないと思っています。

富田 作業時間等は一定の目安があリますが、どこかで滞ればどうしても全体が遅れてしまいます。経験のない地域でも改めて、遅れも見越した上での防疫作業スケジュールを作成し、全体で必要な人員、資材を精査して体制を組み直すことを検討いただきたいです。
また、作業員も現地に到着後、行う作業は分かっていても、その作業に取り掛かるまでの準備や流れを把握していない場合もあります。物資が揃っていなかった際は、何にも取リ掛かれずに時間だけが過ぎて行く場面もあったようです。作業員や指示を出す者に加えて、全体を見て動けるサポート要員も揃えた中で、滞りなく業務が遂行出来るよう考えていかなければなりません。
家畜伝染病予防法により、殺処分と措置の完了時間が定められていますので、一刻も早く作業を進めようと焦ってしまう気持ちもあります。実動中心の訓練を行い、作業時間を軽減することも重要です。しかし、事前準備の度合いによリ、どのように結果の差が出るか判明しました。今回経験できた地域としても、協定先の事業者や関係団体との体制整備、また作業全体を見直すことが大事だと思います。

古澤 本日はありがとうございました。

POINT
■他自治体へのアドバイス
・運営や実働だけでなく連携面の訓練の実施
・本部と現地の連絡調整を行う職員の配置
・遅れを見越した防疫作業スケジュールの作成

■コメリ災害対策センターからの提案
・作業現場と別で物資拠点を設置し物資管理
・必要物資の合計数と日別の必要数の検証、日毎の配送
・簡易検査段階での協定事業者への連絡
・マニュアル作成や発災時の外部団体の介入