防災体制における官民の役割と連携・協力はどうあるべきか

それぞれの強みを活かした災害緊急対策・支援。画期とその活動について それぞれの強みを活かした災害緊急対策・支援。画期とその活動について
(司会)NPO法人コメリ災害対策センター 笠原 治清

それぞれの強みを活かした災害緊急対策・支援。
画期とその活動について

笠原  災害時において、全国に整備局と事務所を展開しているのが国土交通省の強みだと思います。それを踏まえた緊急対策、緊急支援の画期と取り組みをお聞かせください。

野田 まずTEC - FORCE(テックフォース=緊急災害対策派遣隊)についてお話しします。TEC - FORCEは平成20年の創設で、大規模な自然災害が発生、または発生する恐れがある場合に、自治体等が行う被災状況の迅速な把握、被害の発生・拡大の防止、被災地の早期復旧その他災害応急対策に対する技術的な支援を、円滑かつ迅速に実施するために設置されました。
 現時点で隊員の総数は5,386名(平成25年7月1日現在)、北陸管内には640人弱の隊員がおり、いずれも専門性のある技術集団です。創設以来、災害の種類によってありとあらゆる支援をしてきました。 国土交通省の災害対策用機材として、TEC - FORCEでは全国で8機の災害対策用ヘリコプターを持っており、上空から被災地域の状況がすぐ分かります。北陸地方整備局のヘリコプターは「ほくりく号」といい、新潟空港に常駐しています。

 この災害対策用ヘリコプターは通常、職員も搭乗するのですが、東日本大震災の際にこんなエピソードがありました。東北地方整備局のヘリコプター「みちのく号」は仙台空港に駐機していました。地震発生時に東北地方整備局が「すぐ飛ばせ」と命じ、職員なしでパイロットだけが飛び立ち、被災を免れることができました。その直後仙台空港は津波に襲われ、ほとんどの航空機が被災しました。発災当初送られてきた被災地の映像は海上自衛隊と「みちのく号」のものです。水素爆発前の福島原発上空も飛びました。
 TEC - FORCEの重要な活動のひとつに「リエゾン」があります。フランス語で中継ぎを意味するのですが、これは東日本大震災で津波被害の大きかった地域で活躍しました。今その市町村が何に困っていて、どのような状況にあるのか、その場の空気を含めて国交省災害対策本部へ報告し、「こういうふうにやってはどうでしょう」「こんなことを国土交通省でお手伝いできますよ」と、沿岸の30を超える自治体で、北陸、中部、近畿等から派遣されたリエゾンが、市町村長さんのサポートを行いました。 緊急支援には機動力が大事です。東日本大震災では震災発生当日のうちに62名のTEC - FORCEが東北へ入りました。発災翌日には400人近くになり、3日後には500名を越え、全国の組織力が結集され活動の幅が広がりました。

国土交通省北陸地方整備局 局長 野田 徹様 国土交通省北陸地方整備局 局長 野田 徹様

1981年建設省(現国土交通省)入省。中部地方整備局企画部長、水管理・国土保全局防災課長などを経て2013年から現職)

 活動のひとつに「くしの歯作戦」(図1)があります。東北の太平洋沿岸部を通る国道45号は津波で壊滅的に被災してしまいました。この道路が使えないと物資も救援部隊も入ることができません。そこで、45号と並行に内陸部を走る国道4号と東北道に着目し、地元の建設業の皆さんの手を借りて瓦礫をよけながら海側に向かって道路を開けていきました。くしの歯のように1本ずつ道を開いていくのは、我々にとって初めての経験でしたが、震災発生から1週間後には国道45号が使えるようになり、太平洋沿岸ルートができました。

くしの歯作戦

図1:東日本大震災での「くしの歯作戦」

笠原  全国に9ヶ所の物流センターと1100以上の店舗を展開し、その機動力が強みのコメリですが、自らの被災体験から見えた課題と画期をお聞かせください。

NPO法人コメリ災害対策センター 副理事長 捧 雄一郎 NPO法人コメリ災害対策センター 副理事長 捧 雄一郎

 設立のきっかけとなったのは平成16年に新潟県で発生した7・13水害と中越地震です。特に中越地震では長らく余震が続き、余震を恐れた住民の方々が自主的に店舗の駐車場にテントをはり、一時避難されました。私どもは店の早期復旧に努めると同時に、避難された方々に水やコンロ、木炭などを無償で提供しました(写真1)。これらの被災経験から、行政と協力をしながら物資提供できる体制を構築しようとNPO法人コメリ災害対策センターを設立しました。
 私どもの母体であるコメリは沖縄を除く46都道府県に1150店舗展開させていただいております。特に山間部や田舎にも積極的に出店をしているので、店は社会のインフラであると考えています。日本のどこかで災害が起きると必ず被災する店が出ますが、地域の皆様が大変な時こそ、いち早く店を復旧させ、お役に立つことがコメリの使命だと考えます。ホームセンターの扱い商品は資材、建材、日用品など災害時に必要なものばかりです。お困りの時こそ地域の皆様に頼りにしていただける企業でありたいと考えています。

 コメリ災害対策センターが初めて物資供給したのは平成19年の中越沖地震でした。新潟県や柏崎市からブルーシートの要請がありましたが、その時は交通が乱れており、配送に大変な時間がかかりました。今年2月に発生した関東の豪雪の際も、最も困ったのは道路の閉鎖でした。融雪剤や除雪用品の要請があり用意はできるのですが、道路が閉鎖され運べないのです。国や県の努力で道路を確保していただき、ようやくお届けできました。
 また東日本大震災では約400店舗が被災しました。全国から約500名の従業員を集め、ガソリン携行缶にガソリンを積み、被災店舗の復旧にあたりました。非常に広範囲でライフラインが寸断されていたので、状況把握は困難を極めました。

中越地震

写真1:中越地震

 物資については地震発生当日から4カ月間で実に10トン車600台分、103品目を供給しました。そのなかに段ボール4800枚の要請がありました。実はこの段ボールは避難所で仕切りに使用するという、こちらでは考えもしなかった用途でした。さらに被災地からだけではなく、自衛隊や日本赤十字社、そして被災していない自治体から被災地へ送る物資要請もありました。現在はこれらの経験を踏まえて、物資供給ネットワークを強化しています。

北陸地方整備局の紹介

北陸地方整備局の業務は、新潟、富山、石川の全域と、山形、福島、長野、岐阜、福井の一部の8県における主要な河川、道路、港湾、空港などの整備・管理や、管内自治体の都市・住宅の整備の補助、建設産業行政及び官庁施設の整備・管理等を担っています。新潟市に立地する本局のもと、28の事業所が社会資本の整備・管理等の事業を推進しています。
 治水事業は、新潟、富山、石川の3県と、これらの県に河口をもつ一級河川の流域に当たる山形、福島、長野、岐阜の4県の合計7県を対象とし、日本一長い信濃川をはじめとする日本海側に流れる12水系15河川の整備・管理や8山水系の砂防事業、3地区の地すべり対策事業などを行っています。道路関係では日東道をはじめ主要な国道14路線1,070㎞を整備・管理。他にも港湾空港の整備・管理や、国営越後丘陵公園の管理運営など、実に多様な事業を展開しています。
 県内における安全で安心な地域づくりとしては、大河津分水可動堰改修事業、やすらぎ堤耐震対策などを推進しています。また、北陸地方整備局が所管する除雪ステーション等19ヶ所は、新潟県ドクターヘリ離発着場所(ランデブーポイント)として活用されています。

 国土交通省北陸地方整備局